潮騒
「あんなに好きだったくせに、美雪のこと忘れられるの?」


少し意地悪なことを聞いたかもしれない。


それでもレンは笑いながら、



「忘れる必要なんかねぇよ。」


「そういうもん?」


「時が経って、またお互い好きなヤツが出来て、そんで結婚して子供とか出来ちゃったりしても、思い出っていう過去は大事な財産になるんだよ。」


「………」


「で、偶然どっかでばったり会ったりした時にさ、今はすげぇ幸せだぞー、って自慢し合ったりしてよ。」


きっとそういうので良いんだ。


レンは少し寂しそうな、けれど迷いのない瞳で言った。



「美雪は俺にとって特別だったし、幸せだと思ったことを消そうとする方が悲しいだろ?」


「………」


「だからあの日、別れを選んだことを後悔しねぇためにも、俺は俺の人生をもっともっとすげぇもんにしなきゃ、それこそアイツに胸張れねぇから。」


やっぱりレンは最高に格好良くて、自慢のいとこだ。


これが血縁者じゃなきゃ、ちょっと惚れていたかもしれない。



「詩人だ。」


「うるせぇ。」


「馬鹿のくせに、詩人だ。」


「だからうるせぇってば。」


やっぱりあたし達は今も、ふたりで笑おうとする。


変わったことと、変わらないこと。

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