潮騒
「飯にはまだちょっと早ぇから、ドライブでもすっか。」


そう言ったレンは車を走らせ、辿り着いた場所は海だった。


昔はよく一緒に来ていたけれど、でも何だかんだでふたりでここに足を運ぶのは数年ぶりのことだ。


レンが夢を語っていた日が少しばかり懐かしい。



「久々だな、ここも。」


「全然変わってないから、何かあたし達だけタイムスリップしたみたい。」


「だとしたら、もうあの頃には戻りたくはねぇな。」


「でもあの頃のことがあったからこそ、今のあたし達がいるんじゃないの?」


未来は真っ暗闇だとばかり思っていた、今より少し幼かった頃。


けれどその経験こそが、今のあたし達を作り上げていると思ってる。


辛くて苦しくて、死のうとしたことすらももう、今なら“過去”として消化できるから。



「なーんて、現実は問題が山積みなんだけどね。」


「どうかしたか?」


「あの部屋、引っ越そうかと思ってるんだ。」


「何で?」


「もうすぐ契約更新だし、どのみち今のお給料じゃあの家賃はちょっと厳しいからね。」


そっか、と言って少し考える仕草をしたレンは、



「じゃあ、一緒に暮らすか。」


あまりにも事もなさげに言われたその頓狂な台詞に、あたしはぎょっとしてしまう。


けれどレンは笑っていた。



「寂しんぼのいとこ同士でルームシェアってのも、何か面白そうじゃんか!」


「はぁ?」

< 403 / 409 >

この作品をシェア

pagetop