潮騒
お兄ちゃんがあたしの身代わりとなって死んでしまって以来、どこか自分の中で、過去を消化しきれないでいるままだった。


だからきっとあたしは、あの日から時間が止まったままになっていたのだと思う。


レンだってそうだ。


何もかもに苛立ち、漠然とした焦燥感の中を過ごしていた頃に起こってしまった、あの事件。


けれど、出会いがあった。



マサキと。
美雪と。



あたし達がそれぞれに過去と向き合い、前に進むための、偶然という名の奇跡。


人は何度だって歩むことが出来るのだ。


だから今は、感謝しているの。


すべての出会いと、そして、



「レンがいてくれたからだね。」


言ったあたしの言葉に目を丸くした彼は、「気持ち悪ぃこと言うなよ。」なんて口元を引き攣らせながらも、



「まぁ、俺もルカの存在に支えられてたから、何とかやってこれたんだけどな。」


「似た者同士だもんね。」


「いとこだしな。」


そしてあたし達は顔を見合わせて笑った。


段ボール箱に詰められた過去と思い出は、どれもあたしの大切なもの。


レンは少しばかり広くなった部屋で伸びをして、



「ルカが嫁に行くなんて言い出した日には、兄代わりの俺は泣いちゃうかもなぁ。」


「それこそ気持ち悪いって。」


でもさ、と彼は言った。



「お前が本当の意味で支えられてたのは、俺じゃなくて、もちろん他の誰でもない、氷室正輝のおかげだろ?」

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