潮騒
あたしにだって、それなりに罪悪感という感情は存在してるし、胸は痛む。


いくら奪われた金が黒いものだとしても、北浜社長は悪いだけの人ではなかったのに。


なんて、考えたって仕方がないのかもしれないけれど。


情報屋だという、マサキ。


たったそれだけのことしか知らないけれど、煙に混じって吐き出したため息が、静かに消えた。


物憂げに宙を仰いだ時、



「あ、ルカさんここにいたんすね!」


ぱたぱたと走って近付いてきた、担当の黒服。


彼はあたしから煙草を奪い、それを灰皿になじってから、胡散臭い笑顔を向けてきた。



「もう時間なんだからサボってちゃダメでしょー?」


で、相変わらずの馴れ馴れしくて媚びた口調。


女のご機嫌取りがお得意なコイツらしいが、うざったくて嫌になる。


肩をすくめて見せたあたしに、黒服くんはいたずらに口角を上げてから、



「もしかして、マクラ業務でお疲れなんすか?」


マクラ業務、って。


それでも、彼のふざけた台詞には笑ってしまった。


憎めないとでも言おうか、どこかおちゃらけた時のレンと似てるように見えてしまうから。



「何よ、疲れてるって言ったら癒してくれんの?」


「はいはい、そういう冗談はお客さんとしてくださいね。」


今度は背中を押されてフロアまで連れて行かれる始末だ。


掴みどころのないその態度に、あたしはまた笑ってしまった。

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