潮騒
一喝されてもめげない彼は、それでもへらへらと笑っていた。


何だかもう、どうして良いのかわからない。


それを察してくれたらしいマサキは、



「ちょっと先行ってろよ。」


と、彼を追い払ってくれた。


オッドアイの男は肩をすくめ、ケーチ、と舌を出して捨て台詞みたいなことを言ってから、その場からひとりきびすを返す。


マサキは一息ついたようにあたしに向き直った。



「悪ぃな、アイツ馬鹿だから。」


それでも曖昧な笑みしか返せない。


これ以上考えるのはやめようと思っていた先に、しかもこんな風にして再会したって、ろくな言葉も見つけられない。



「あぁ、そっか。
お前のマンションそこだもんな。」


「…うん。」


「今日休み?」


その問いに頷くと、



「なぁ、暇してんなら飯行かね?」


友達感覚で普通に誘われて、また驚いてしまった。


どうしたものかと思ってしまうが、さっきの男と一緒に、というなら御免だ。



「あたしご飯の準備しちゃったし。」


でも、はっきりとした断り文句でない自分には、嫌になる。


マサキは少し困ったような顔をした。


だから気付くより先に、あたしは口を開いていたのかもしれない。



「あ、けど、何かいっぱい作りすぎちゃったんだよね。」

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