潮騒
言った後で、自分の愚かさが身に沁みた。


それはつまり、うちに誘ってるってことと同じなのだから。


マサキは小さく笑った。



「じゃあ、行っても良い?」


あたしはおずおずと頷くことしか出来ない。


辺りはすっかり真っ暗になっていて、一層風が冷たく感じる。


彼は出会ったあの日の印象なんて皆無で、一体どちらが本当の顔なのか。



「さっきの人、大丈夫なの?」


「あぁ、あの馬鹿なら放っときゃ勝手にやってるだろうから。
一緒にいたって恥ずかしいし、話し掛けられても他人だと思ってれば良いよ。」


なら、アンタは?


と、聞こうと思ったけれど、愚問だろう。


ふたりは何だかんだ言いながらも、結局は仲が良いのかもしれない。


マサキもコンビニで煙草だけを買い、並んで夜道を歩いた。


と、いっても、すぐそこなんだけど。



「何食わしてくれんの?」


「別にそんな期待されるほどのものはないけど。」


「いや、期待はしてねぇけどな。」


「あーっそ。」


けれど、隣の彼は笑っていた。


普通の格好した、普通の男、という感じだ。


ちょっと勘違いしてしまいそうになる自分は、やっぱり嫌になる。

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