潮騒
「広いわりに、あんま何もねぇ部屋だな。」
嫌味とも受け取れるようなマサキの言葉を聞き流し、適当に座ってて、と言って背を向けた。
レン以外の人間がこの部屋に入ったことなんてなかったから、だからどこか自分の空間だということを忘れそうになってしまう。
時間が経って鍋の中身は少し冷めてしまっていたため、コンロに火を掛けた。
薄っすらと、でも確かに部屋にはマサキの香水の香りが満ちていく。
くらくらしそうだ。
「それ、シチュー?」
弾かれたように振り返ろうとした時には遅かった。
いつぞやとまるで同じように、背中から抱き締められているあたし。
捕まえるみたいに回された腕は、まだ先ほどの夜風の所為か、少しばかり冷たいものだ。
「俺シチュー好きだよ。」
耳元で零される笑みに、鼓動が速くさせられる。
だからどうにかしようと思って顔を向けたら、今度は唇が奪われた。
ついばむようなキスの間で繰り返される、いたずらな笑顔。
マサキは子猫みたいに甘えるような仕草であたしの首筋に顔をうずめる。
と、その時、鍋がぐつぐつと煮立ち、蓋が躍る音にびくりと肩を上げた。
「あーあ、残念。」
困ったように言って、彼はあたしからふわりと離れた。
抵抗することさえ忘れていたということは、やっぱりあたしはマサキを受け入れていたということなのだろうか。
ただ少し、首筋が熱い。
客と同じ行為の中に、あたしは一体何を求めているというのか。
嫌味とも受け取れるようなマサキの言葉を聞き流し、適当に座ってて、と言って背を向けた。
レン以外の人間がこの部屋に入ったことなんてなかったから、だからどこか自分の空間だということを忘れそうになってしまう。
時間が経って鍋の中身は少し冷めてしまっていたため、コンロに火を掛けた。
薄っすらと、でも確かに部屋にはマサキの香水の香りが満ちていく。
くらくらしそうだ。
「それ、シチュー?」
弾かれたように振り返ろうとした時には遅かった。
いつぞやとまるで同じように、背中から抱き締められているあたし。
捕まえるみたいに回された腕は、まだ先ほどの夜風の所為か、少しばかり冷たいものだ。
「俺シチュー好きだよ。」
耳元で零される笑みに、鼓動が速くさせられる。
だからどうにかしようと思って顔を向けたら、今度は唇が奪われた。
ついばむようなキスの間で繰り返される、いたずらな笑顔。
マサキは子猫みたいに甘えるような仕草であたしの首筋に顔をうずめる。
と、その時、鍋がぐつぐつと煮立ち、蓋が躍る音にびくりと肩を上げた。
「あーあ、残念。」
困ったように言って、彼はあたしからふわりと離れた。
抵抗することさえ忘れていたということは、やっぱりあたしはマサキを受け入れていたということなのだろうか。
ただ少し、首筋が熱い。
客と同じ行為の中に、あたしは一体何を求めているというのか。