潮騒
それからふたり、食事を終えて、ソファーで一服する彼と、その横で携帯をいじるあたし。


間が持たなくて、だから気付けば言葉にしていたのかもしれないけれど。



「そういえばこの前、北浜社長から電話があったよ。」


「で?」


「強盗に入られて、口座の一部から預金が引き下ろされてたんだって。
けど、警察には言えないんだ、ってさ。」


マサキにそれを言ったって、どうしようもないことはわかってる。


けど、でも、あれからずっと、もやもやとするものが燻ったままなのだ。


彼は息を吐いた。



「お前が気にすることじゃねぇし、俺の所為にしときゃ良い。」


ひどく冷たい瞳。


あたしが堪らず顔を俯かせると、鳴ったのはマサキの携帯の着信音だった。



「あぁ、わかったよ、ならそっち戻るから。」


手短にだけ言い、通話を終了させた彼は、煙草を灰皿へとなじる。



「俺帰るわ、ごちそーさん。」


言ったのはあたしだったはずなのに、そんな一言がぐさりと突き刺さった気がした。


考えるより先に彼の服を掴んだけれど、はっとしてすぐに手を離す。


マサキはため息混じりに宙を仰いだ。



「俺の仕事が嫌なら仕方ねぇし、ならもうこうやって関わらねぇから。」


「………」


「悪かったな、邪魔して。」

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