潮騒
このままもう会えなくなる。


そう思った瞬間、世界が急にぐにゃりと歪んだ気がして、体が震えた。



「…ごめっ、あたしっ…」


何が言いたいのかもわからなくて、それでも意志とは別に涙が溢れてくる。


自分のことなのに、まるで思考が定まらない。


マサキの目が怖かった。



「何で俺のこと引き留めんの?」


「………」


「お前ホントはどうしてぇの?」


マクラ嬢のあたし。


情報屋のマサキだって他の女を抱いているのだろうということは、薄々はわかってる。


それでも、ぼろぼろと子供みたいに大粒の涙が溢れ続け、止まらない。



「…やだよっ…」


行かないでよ、と。


掠れそうな、途切れそうな声で言ったあたしの体が、刹那、ふわりと引き寄せられた。


驚くより先に、鼓動の近さに呼吸することさえも忘れてしまう。



「そういうこと言われると、俺またお前の前に現れちゃうよ?」


「………」


「つーか、駆け引きなしにマジになったらどうすんだよ。」


恐る恐る顔を上げると、彼はいつものように困ったような笑みを浮かべていた。


そういうのは、ちょっと反則じゃないか。



「お前、何か泣いてばっかだな。」

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