潮騒
レンの前でさえ涙なんて見せたことのなかったあたしなのに。


なのにマサキといると、途端にいつも通りじゃいられなくなる。


照れ臭さと悔しさで口を尖らせるように目を逸らした瞬間、再び彼の携帯が着信のメロディーを響かせた。


ディスプレイを確認したマサキは、



「アイツ、ホントせっかちで嫌になるよな。」


そう肩をすくめ、マジでそろそろ行かねぇと、と少し残念そうな顔で言う。



「なぁ、また来て良い?」


あたしはその言葉に、こくりと頷いた。


この関係をどういうものにしたいのかなんてわからないけれど、でも嬉しくて、泣き顔のままに笑ってしまう。


マサキはあたしに軽く唇を寄せた。



「じゃあな、ルカ。」


扉から出る後ろ姿。


それを見送るあたしはまるで、同棲してるカノジョみたいだと思うと、またちょっとだけ笑えてしまった。


もう、彼がどんな人だろうと良かったのかもしれない。


例えこれから何をしようとも、抗うことの出来ない想いが確かにあたしを占めていたから。


だから、全てを振り払った。


マサキがいなくなった部屋で、後片付けをして、洗い物をして、そんなつまらないだけの時間すら、少し糧になるかのよう。


今にして思えば、それはまるで、何かに導かれていたのかもしれないけれど。

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