潮騒
深夜、眠りに落ちたまどろみの中で、カタッと何かの音が聞こえ、目を覚ました。


薄目がちに見た暗がりの部屋の中で、人影が動く。



「悪ぃ、起こした?」


マサキだった。


ベッドはぎしりと僅かに軋む。



「何かやっぱすげぇ会いたくなってさ、とっとと仕事終わらせて車ぶっ飛ばして来てみたら、不用心にも部屋の鍵が開いてるし。」


これって不法侵入かな?


と、彼が笑う顔が月明かりに照らされる。


時刻は午前4時を過ぎようとするような頃だった。



「お前の顔見たくて、襲いに来ちゃった。」


笑ってしまった。


冷えた部屋の中で、微かに漂うマサキの香水と煙草の混じり合った香り。



「うん、嬉しい。」


本当に、どうかしてる。


それでも彼に抱き締められて、小さな幸福の渦に堕ちていく。


何ひとつ満たされなかったあたしの、そこが唯一の安らぎの場であるかのように、マサキの腕に引き寄せられる。



「お前の体、あったけぇな。」


ぬくもりを重ね、肌を触れ合わせ、吐息を絡めた。


他の何も介在する隙間さえないほどに、彼の存在だけを求めた。


今だけで良いから、この手を離さないでほしかった。

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