潮騒
カオルちゃんはあたしと同じ、お父さんの娘。


けれど、新しい家族は幸せに満ち溢れているのだろうことは、あの子の成長にも表れているから、悲しくなるのだ。


捨てられたということに、今更傷つきたくなんてないのにね。



「だってしょうがねぇじゃん、俺にとっていとこなもんは事実なんだし。」


「わかってるよ。」


でも、レンは正面を見据えながら煙草を咥え、



「何か嫌な話だよな。」


「………」


「親戚が集まってる中で、誰もユズルくんやルカの話なんてしねぇの。
まるでなかったことみたいな扱いで、カオルちゃんを可愛がってるんだから。」


だからレンは、よっぽどのことがない限り、盆や正月でさえも実家になんて顔を出さないらしい。


それが、今はいないあたしの父方の縁者たちだ。


自分がいらない子だという自覚はあるし、言われ慣れている。


けど、でも、虚しさばかりが増していく。



「まぁ、気にすんなよな。」


同じ街に住んでいるんだし、こんなことだって今までに何回かあった。


だから気にしてなんていないつもりなのに、なのにいつも、堪らない気持ちにさせられるのだ。


沈黙の中、窓の外へと視線を移し、短くなった煙草を灰皿へとなじっていると、鳴り響いたのはあたしの携帯の着信音。


ディスプレイには客の名前が表示されている。



「ごめん、レン。
やっぱりあたし、一緒にご飯行けそうにないや。」


彼は無言のまま、車を車道脇へと停車させ、あたしも何も言わないまま、それから降りた。


手首の古傷が、どうしようもなく痛みを放っている気がする。

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