潮騒
それは、アフターを終えて帰宅しようとした時のこと。


突然の雨に降られ、タクシーを拾えなかったあたしは、とりあえず的に近くにあったファミレスの店内へと逃げ込んだ。


が、雨足は強くなる一方で、正直どうしようかと思ってしまう。


こんな時間に人影はまばらな店内で、ひとりでドリンクバーというのも、それはそれで恥ずかしいものだ。


と、窓を打つ雨音に耳を傾けながら携帯をいじり、煙草を咥えてため息を混じらせていた時。



「あっれー?」


頭上から響いた間抜けな男の声に顔を上げると、



「確かこの前マサキと一緒にいた子だよね?」


あの、オッドアイの人だった。


彼はへらへらと笑いながらサングラスを外す。



「誰かと待ち合わせでもしてるの?」


「いえ、雨降ってたんで。」


あたしが愛想笑いを返してみたら、



「じゃあ向かいに座っちゃっても良い?」


「…えっ…」


「俺さぁ、この後ちょっと予定あるんだけど、まだ時間あるし、ついでに暇潰しに付き合ってよ。」


と、言った彼は、こちらの返事を聞くこともなく、勝手にあたしの向かいへと腰を下ろす。


とんでもなく気まずい状況だが、どうやら逃げることは叶わないらしい。


呆れそうなあたしを無視で、メニュー表を広げた彼は、店員を呼んで適当なものを端から注文していた。

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