潮騒
新規の客で、しかも5分と話してもいないのに、さすがにいきなりアフターというのはどうだろう。


けれど彼はクッと喉を鳴らし、



「何だ、度胸もねぇのかよ、マクラ嬢。」


この男の考えてることがわからない。


まるで挑発するような台詞に視線を滑らせるが、でも彼は傍にいた黒服を呼び付ける。


今度は一体何なのかと思っていると、



「この店で一番高い酒、持ってこい。」


ひどく驚いた。


けれど彼はまた、嘲るようにあたしに視線を戻してから、



「これならアフター付き合うの、文句ねぇだろ?」


確かにあたしはこれで何も言えなくなってしまったわけだ。


けど、でも、その瞳の奥には企みが含まれているようにさえ見える。



「アンタ、何なの?」


「俺が何者だろうと、てめぇの売り上げにゃあ関係ねぇだろ。」


「………」


「金が欲しいんなら、俺と寝ろよ。」


彼がそう言った時、黒服によって一番高級なシャンパンが運ばれてきた。


迷いもなくこんな酒を頼む男だ、金を持っていることだけはわかるけれど。



「どうして他の子じゃなくて?」


「それも関係ねぇ話だ。」


煙草を歯で咥えて見せた彼に、わかりました、とあたしは呟いた。



「良いですよ、アフター。」

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