潮騒
沈黙が続く中で、でも彼はまるで気にすることもなく食事を進めていた。


相変わらずの雨は止む気配なんてなく、それは誰かの涙みたいに降り続いている。


だから気分は重いままだ。



「人の秘密を握るなんて、あたしには悪趣味なことだとしか思えませんけどね。」


それは嫌味混じりの台詞だったのかもしれない。


けれどチェンさんはくすりと笑ってから、



「マサキは仕事だって割り切ってやってるみたいだけど、少なくとも俺は、そういうの楽しんでるよ。」


「………」


「だって例えばの話、どんなお偉いさんだって隠しておきたいことのためには大金を積むし、それがちょっとありえないような性癖のこととかだったら笑っちゃうでしょ。」


他人を見下すような目つきだった。


だからどんなに笑顔を振りまいてようとも、きっとこの男は、芯の冷たい人間なのだろう。



「まぁ、別に俺らは何かを知ったからって誰かを脅すような真似はしないし、それで恨みを買うと、後々面倒なだけだから。」


じゃあ、どんなに他人の情報を得たところで、それを悪用しようという考えはない、ってことだろうか。


けど、どうせそのためには違法なことだってしてるんだろうし、変なところで偉そうなことを言わないでほしいものだけど。



「あ、ルカちゃんも誰かの何かを知りたくなったらいつでも言ってね。
お友達割引と可愛い子特典で、超お安くしとくから。」


「はいはい、そりゃどうも。」


だからって別にあたしはそんなことを頼むつもりはないし、それ以前にこの人と“お友達”になった覚えもない。


けれどへらへらと笑う彼を前にしては、いちいち否定する気も失せる。


とりあえずもう、早く帰りたいと思っていた時、まるでタイミングを見計らったみたいにチェンさんの携帯が、着信音を響かせた。



「うわっ、マサキからだ!」

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