潮騒
彼はわざとのようにあたしにディスプレイの文字を見せてから、



「ほいほーい、チェンくんでーす!」


と、楽しそうなご様子で通話ボタンに指を乗せた。


もうすぐ午前4時半を迎えるというのに、どうしてこんなにも元気が有り余っているのか不思議で堪らないのだけど。



「それより聞いて驚けよー。
なんと今、俺ルカちゃんと一緒なんだぁ!」


その台詞に、向かいで頬杖をついていたあたしまでぎょっとした。


頼むから、この状況を楽しむのだけはやめてもらいたい。


が、大爆笑のまま電話を切った彼は、



「マサキ、今からここ来るって言ってたよ。」


「へっ?!」


「何かすんごい怒ってて、俺もう腹がよじれるかと思うくらい笑っちゃったもん!
やっぱりアイツ面白いよねぇ。」


本当にふざけた男だ。


痛むこめかみを押さえながらあたしは、



「じゃあもうあたし帰りますから。」


「えぇ、どうして?」


どうしてかと問われても困るのだけれど。



「雨の、しかもこんな時間じゃあタクシーなんて見つけられないし、マサキが勝手に来るって言ったんだから、ついでに送ってもらっちゃえば良いじゃんか。」


「………」


「それにキャバ嬢さんは、男に甘えるのだってお得意でしょ?」


まったく、腹が立つ。


けれど結局はそんな台詞に引き留められ、ここに残る羽目になってしまった。

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