潮騒
「ねぇ、怒ってる?」


おずおずと聞いたあたしに彼は、



「別にお前に対してとかじゃねぇよ。
どうせアイツが無理やり、暇だから話し相手にでもなってー、とか言ったんだろ?」


何でわかるんだろう、という台詞はきっと愚問だ。


あたしが曖昧な笑みを浮かべると、



「まぁ、チェンは常に誰かと一緒にいたいタイプだから、付き合わされる方は堪ったもんじゃねぇんだけど。」


相手してると疲れるだろ、と、彼は困ったように言った。


確かに良い人なのか悪い人なのか掴めないところがあるし、対応に困るような場面も多かったけれど。



「でも、可哀想なヤツなんだ。」


雨音のけぶる窓ガラスへと視線を滑らせ、マサキは言う。



「アイツ、人当たりの良いフリしてるだけで、本当は世界中の人間すべてを憎んでんだから。」


それは、ひどく悲しく聞こえた台詞だった。


肩をすくめた彼はあたしへと向き直り、



「つか、こんなとこいたって意味ねぇんだし、俺らもさっさと帰ろうぜ。」


「あ、うん。」


そこで初めて、チェンさんにドリンクバーの代金を御馳走になってしまったことに気付いた。


が、お礼を言おうにも相手はいない。


マサキに早くしろと促され、ため息混じりに席を立った。


本当に、会うのはいつも突然だと、今更ながらに思ってしまう。

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