潮騒
店を終えて、真っ直ぐに連れてこられた場所は、ホテルの一室。


セックスなんて、一回も百回も同じことだ。


ここに来る車内で、彼はマサキという名だと教えられた。


会話はたったそれだけだった。



「そんなとこ突っ立ってねぇで、こっち来れば?」


言われた通りに上着を脱いで傍に行った瞬間、ベッドに崩された。


落ちてくるのは、無機質なまでに色を持たない冷たい瞳。


見ていると、怖いと思うより先に、何故だか悲しくなってくる。



「お前やっぱ普通だな。」


彼はそう言って、小さく笑った。


笑ってから、シャツを脱いだその左腕には、唐獅子牡丹の刺青がある。


一説には、龍と並び、最も威厳と勇猛さを兼ね備えた霊獣の代表的存在、らしいけれど。


それは真っ直ぐにあたしへと伸びてきて、冷えた指先が柔肌を滑る。


声が漏れた。



「ぐちゃぐちゃにしてやりたくなるね、そういう顔。」


体をまさぐられ、唇を奪われて、呼吸さえも容易く絡め取られてしまう。


痛みと快楽の狭間で、消え入りそうな嬌声が舞った。


まるで許しを請うように腕を伸ばし、彼に縋ると、持ち上げられた唇の端。


その瞬間、熱塊によって貫かれた。



「ルカ。」


呼ばれた名前に途切れそうだった意識を戻され、思わずその腕に爪を立てた。


いっそ殺してくれればとさえ思いながら果てたあたしは、一体何なのか。

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