潮騒
過去の傷痕
数日降り続いた雨は辛うじて止み、けれど重い色をした空模様だった。
いつもの喫茶店の、いつもの席で、向かい合うのはお母さん。
「悪いわね。
ちょっと病院代がかさんで、今月の家賃が払えそうになくて。」
まるで心にもないような顔で、彼女はコーヒーのカップを持ち上げる。
「良いよ、これくらい。」
「あら、稼いでる人は随分と生活に余裕があるのね。」
「そんなんじゃないけど。」
あたし達が目を合わせることはない。
けれど気にする様子もないお母さんは、封筒の中身を確認し、それをバッグの中へと投げ入れた。
沈黙の中、鳴ったのはあたしの携帯。
「電話、出なくて良いの?」
「メールだから。」
ふうん、と言った彼女は、
「どうせ男からなんでしょ?」
蔑むような目を向けられ、棘のある言葉が突き刺さる。
手首の古傷は、相変わらずの痛みを放っていた。
「そういうのがお得意だなんて羨ましい話ね。」
「………」
「アンタの父親も、影で女をたぶらかすのがお上手だったみたいだし、やっぱり親子ってことかしら。」
脳裏をよぎった、カオルちゃんの顔。
お母さんは今もお父さんに対し、憎しみの炎をたぎらせたまま、それをあたしへと向けてくる。
いつもの喫茶店の、いつもの席で、向かい合うのはお母さん。
「悪いわね。
ちょっと病院代がかさんで、今月の家賃が払えそうになくて。」
まるで心にもないような顔で、彼女はコーヒーのカップを持ち上げる。
「良いよ、これくらい。」
「あら、稼いでる人は随分と生活に余裕があるのね。」
「そんなんじゃないけど。」
あたし達が目を合わせることはない。
けれど気にする様子もないお母さんは、封筒の中身を確認し、それをバッグの中へと投げ入れた。
沈黙の中、鳴ったのはあたしの携帯。
「電話、出なくて良いの?」
「メールだから。」
ふうん、と言った彼女は、
「どうせ男からなんでしょ?」
蔑むような目を向けられ、棘のある言葉が突き刺さる。
手首の古傷は、相変わらずの痛みを放っていた。
「そういうのがお得意だなんて羨ましい話ね。」
「………」
「アンタの父親も、影で女をたぶらかすのがお上手だったみたいだし、やっぱり親子ってことかしら。」
脳裏をよぎった、カオルちゃんの顔。
お母さんは今もお父さんに対し、憎しみの炎をたぎらせたまま、それをあたしへと向けてくる。