潮騒
「あたしにもあるんです、どうしてもお金を稼がなきゃならない理由が。」


美雪はそう、笑顔を曇らせがちに言った。


何でも、初めは昼職をしながらバイトでキャバをやっていたらしいが、結局こっち一本に絞り、うちの店に来たらしい。



「ほら、次の日の朝が早いこと考えると、どうしてもアフターとか断っちゃって、そしたらお客さんも指名してくれなくなって。」


「………」


「けど、キャバだと頑張った分だけお給料に反映するから、やり甲斐もあるし。」


そうまでして稼ぎたい理由とは、何なのか。


まぁ、いちいち詮索する気はないし、第一、話の全てを信じようとは思わない。


嘘で塗り固めた、あたし達。



「って、ごめんなさい!
こんなことべらべら喋っちゃって、迷惑でしたよね!」


したたかなのか、それとも本気で言っているのか。


くるくると表情を変える美雪は、売れるような予感がした。



「でもあたし、本当にルカさんに憧れてるんです。」


勘弁してほしい。


それでも美雪は目を輝かせ、



「だからルカさんと仲良くなりたくて。」


こういうのが一番苦手なのに。


まぁ、馬鹿馬鹿しいから放っておくに限るし、どうせ店でだけの付き合いだ、適当に相手をしてやり過ごすのが一番無難だろうから。


あたしは愛想笑いだけを返し、そろそろ帰らなきゃ、と席を立った。

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