潮騒
けれどその日以来、何故か美雪はあたしの傍に寄って来るようになった。


他愛もない話しかしないけれど、でも何か企んでいるという風にも見えない。


だから少し困ってしまう。


友達なんてもの、欲しいとさえ思ったこともなかったのに。



「ルカさん、今度一緒にショッピング行きましょうよ!」


「………」


「で、ランチして、ケーキバイキングにも行きたいですよねぇ!」


それから、それから、と指折り数えて考えを巡らせる美雪に、呆れてしまう。



「ちょっとアンタ、勝手に決めて話進めないでよ!」


「えっ、ダメでした?」


「忙しいから無理だって言ってんでしょ!」


と、怒るあたしに、しゅんとした彼女の潤んだ瞳がチクチクと刺さる。


だから今更になって、キャバ嬢にねだられて断れない男の気持ちというものを理解した気がした。


あたしはこめかみを押さえ、ため息を混じらせる。



「もう、わかったわよ!」


諦めて言うと、目を輝かせた美雪は、



「やったぁ、あたし嬉しいです!」


飛び上がって喜んでいた。


だからこういうのが嫌だと言っているのに。


他のキャスト達は、急に親しくなったあたし達を見て、またひそひそと声を潜めて話している。


面倒なことにならなきゃ良いけど、とあたしは、煙草を咥えて宙を仰いだ。

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