潮騒
肩をすくめたような呆れ顔だ。


自分でも苦しい言い訳だったことはわかってるけど、でも、誰にも知られたくなんてない。


あたしは壁に寄り掛かるようにして顔を俯かせた。



「そんな辛そうな顔してるくせに、何でもないはずないでしょ。」


「………」


「別に無理に話せとかは言いませんけど、自分を守るための隠し事って、時にはその所為で苦しくなっちゃったりもするんですよ?」


間違ってないから、嫌になる。


気の早い冬の西日は次第に沈み始め、冷たい風が裏通りを吹き抜ける。


あたしは無意識のうちに左手首をさすっていた。



「生きてる意味がね、見つけられないの。」


風に消えた、あたしの呟き。


美雪は一瞬ひどく驚いたような顔をして、でも唇を噛み締める。



「その気持ちは、あたしもわかります。」


けど、と彼女は言葉を切ってから、



「けどね、本当に生きたいと願う人には失礼ですよ。」


どこか自嘲気味に聞こえた台詞だった。


それはつまり、美雪が金を稼ぐ理由と何か関係があるんだろうか。



「なんて、死ぬより生きてることの方が辛い人だっているし、あたしちょっとお説教っぽかったですかね。」


ごめんなさい、と笑う彼女。


またあたしは言葉が出なくなる。


でも、その強さがどこか羨ましくも思えてしまった。

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