潮騒
荒くなった吐息が絡み、圧し掛かる重みで僅かに揺れる、ベッドのスプリング。


彼はあたしの上から体を退かし、傍に置いていた煙草の箱から一本を摘み上げた。


部屋を舞う、吐き出された白灰色の煙。



「さーて、本題に入ろうか。」


「え?」


と、振り向いた瞬間。


その瞬間、あたしの額の数センチの距離に向けられていたのは、真っ黒い何か。


カチャリ、と音がした。



「…何、それ…」


拳銃だった。


本物か、それともモデルガンかはわからないけれど、でもこの位置で撃たれれば、あたしは無事では済まされないだろう。


何より眉間に突き立てられたそれの冷たさに、ぞっとした。



「お前の客に、北浜っているよな?」


「………」


「アイツの情報がほしいんだけど、ちょっと協力してくれねぇか?」


北浜社長――この界隈では有名な土地転がしの不動産王で、黒い噂もある、あたしの太客だ。


マサキと名乗ったこの男が、警察なんかじゃないことはわかる。



「…情報、って言われたって…」


「パスワードだよ。
4桁の暗証番号なんだけど、誕生日でも、住所でも、電話番号でもなくて、何だと思う?」


つまりはあたしから、それを聞き出そうということらしいが。



「お前がアイツと寝てることくらい、こっちは把握済みなんだよ。」

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