潮騒

揺れ動く瞳

深夜、仕事を終えて歩いて帰宅していた時のこと。


店長から頼まれた用事を済ませた後なので、いつもとは少し違う道だ。


もうすぐ午前3時を迎える頃、大通りから一本中に入れば、もうそこには人影なんて見当たらない。


カツ、カツ、カツ、とあたしのヒールの音だけが、規則的に響いていた。


漆黒の夜には慣れているとはいえ、やはり少しだけ怖くなる。


途中には公園があり、中を抜けると近道だ。


あたしは迷わずそちらを選んだ。


と、その時。



「お嬢ちゃん、こんな時間にどこ行くのー?」


声を掛けてきた、酔っ払いのオヤジ。


ベンチに座って夜風に当たっていたらしい男は、前を通ったあたしを見つけ、立ち上がった。


けれど相手になんてしてられない。


だから無視を貫いて歩を進めようとしたが、



「ちょっとお話でもしませんかぁ?」


なんて、腕を掴まれびくりと肩が上がる。


いくら酔っていても、大の男の力が強いものだというくらいは身に沁みている。


ぞわりと背筋を恐怖が伝った。



「離してください。」


「良いじゃねぇかよ、ちょっとくらい!」


「ホントにやめてよ!」


渾身の力でその手を振り払うと、彼は千鳥足でふらついた。


あたしはその隙を突いたように、足を踏み出す。



「くそっ、待てよ!」

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