潮騒
けれど、助けてほしい、なんて言って良いものなのだろうか。


友達でも恋人でもないだけの、あたし達の関係。


だから言葉に詰まり、電話をしたあたしの方が逆に困りあぐねていると、



『なぁ、何かあったんなら言えよ。』


彼の声に、少し震える息を吐いた。



「ちょっと、変な酔っ払いに声掛けられて。」


『……え?』


「それで追い掛けられて、怖くなって逃げたんだけど。」


もしも今、アイツがこのコンビニに入ってきたら、なんて。


思い出すだけで、先ほど掴まれた場所が気持ち悪い。



『今どこ?』


「…えっ…」


『すぐ行ってやるから、今どこかって聞いてんだよ!』


急かすように、焦った様子で彼は捲くし立てた。


だからその勢いに押されたようにあたしは、このコンビニの場所を告げてしまう。


待ってろ、とだけ言って途切れた通話。


あたしは耳から離した携帯を眺めながら、今更ながらに驚いていた。


だってまさか、そんな風に言ってくれるだなんて思いもしなかったから。


膝を抱え、けれど少しばかり恐怖心は消えていた。


それから5分ちょっとが過ぎた頃。

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