潮騒
店のドアが開いて、入ってきたマサキはあたしを見つけ、駆け寄ってきた。


不覚にも、それだけのことで泣きそうになってしまう。



「大丈夫か?」


「…うん。」


「何もされてない?」


また頷くと、彼は少し安堵したような顔。


手を引かれ、ホットの飲み物を買ってくれたマサキと共に、車に乗り込んだ。


あたたかいのは、繋いだ手なのか、ジュースなのか。



「ごめんね、迷惑掛けて。」


「馬鹿、心配したから来たんだろうが。」


「………」


「それにどうでも良いヤツからの電話なら出ねぇし、まぁ、久々にちょっとビビったけどな。」


あたしの指先に、彼の唇が触れた。



「俺がいるから、もう怖くねぇだろ?」


そんなに優しい目をしないでほしい。


車は走り出す。


けれどうちのマンションとは逆方向に向かっていることに気付き、



「ねぇ、何でこっちなの?」


「俺んちあるから。」


「…えっ…」


「ひとりで家にはいさせられねぇし、今日はうち来れば良いからさ。」

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