潮騒
また驚かされた。


けれどそれからすぐに、車は本当に見知らぬアパートの駐車場へと入っていく。


マサキが暮らす場所だ。



「前は俺もちょっと良いとこ住んでたんだけど、あんま帰んねぇから家賃の無駄だって気付いて。」


「寝られれば良い、って?」


そんな感じ、なんて彼は笑いながら、3階の一室へと案内してくれた。


部屋は男のひとり暮らしというわりには、小ざっぱりとしている印象だった。


曰く、引っ越す時にほとんどのもん捨てたから何もねぇけど、とのことだ。


無造作に、煙草と携帯と一緒にマサキは、銃をチェストの上に置く。


ゴトッ、という、鈍い音がした。



「それ、本物?」


だから考えるより先に聞いていたのかもしれない。


けれどまた彼は笑った。



「こんなんオモチャに決まってんだろ。」


そのわりには、重厚感が漂っているように見えるけれど。



「良く出来てるだろ?
まぁ、精巧に作られたモデルガンってやつかな。」


「そっか。」


ちょっとほっとした。


だってさすがに、マサキが本物の拳銃なんか持ってるような人だったらどうしようかと思っていたから。


脅しで良かったと、心底思う。

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