潮騒
一緒にベッドに入ると、ぬくもりが触れ、子供みたいに安心している自分がいる。


冷えた体があたためられて、マサキの香りに包まれた。



「なぁ。」


「ん?」


「また何かあったら、いつでも電話して来いよ。」


何だか甘やかされているような気分になる。


セックスもしないで一緒にいるなんて、あたし達にしては不自然なのかもしれないけれど。



「どうしてそんなに優しいこと言うの?」


「俺ひどいこと言ったことあった?」


目が合って、彼は笑う。



「それに嫌ってたらこんなんしねぇって、何回も言ってんじゃん。」


その腕に抱き寄せられて、胸にうずめられると、どちらのものなのかわからない鼓動が聞こえた。


あぁ、やっぱりあたしはこの人のことが好きなんだ。


もう何度そんなことが脳裏をよぎっただろう。


けれど、言葉になんて出来るはずがないから。



「ありがとう。」


だからいつもあたしにはそれが精一杯だ。


マサキの部屋は静かすぎて、物音のひとつもない。


小さくだけ唇が触れて、彼は目を瞑った。


ずっとこんな風でいられるならば、明確なものなんていらないよ。

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