潮騒
翌日起きて、目の前にあったマサキの寝顔を見た時、くすぐったくなって、不覚にも笑ってしまった自分がいた。


相手の家で、その腕にくるまれていると、まるで初めて恋をした中学生のような気分になる。


ゆっくりと体を起き上がらせ、煙草を手繰り寄せようとした時だった。


んんっ、と彼はくぐもった声を上げる。



「ごめん、起こしちゃった?」


と、焦ったように言ってみたが、どうやらマサキは寝ぼけているだけらしい。


不機嫌そうな寝顔がちょっとだけ可笑しい。


未だ眠る彼をベッドに残し、あたしはリビングのソファーに腰を下ろした。


煙草を吸いながら携帯をいじっていると、無意味に客からのメールが受信されていく。




【ルカちゃんに会いたいよー!】

【今日もしかしたら店行くかも。】

【今度あのバッグ買ってあげるね。】

【今から会えない?】




あたしは一体誰だったろうかと、時々わからなくなる瞬間がある。


どこまでが本当の自分で、どこからが嘘の自分なのか、と。


もしも体を売っているのが別のあたしならば、少しは楽でいられただろうか、なんて、考えるだけ無駄なのかもしれないけれど。



「ルカ?」


弾かれたように顔を向けてみると、マサキがドアにもたれ掛かるようにして佇んでいた。



「いねぇから帰ったのかと思ったら。」


「寝てるの邪魔しちゃ悪いと思っただけだよ。」

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