潮騒
「ルカもわんちゃん欲しい!」
少し見ただけの帰り道で、あたしはそればかり繰り返していた。
お兄ちゃんはそんなあたしを笑いながらなだめてくれていたんだっけ。
そして再び訪れた大通り。
信号待ちをしている中で、あたしは散歩に連れられている犬ばかりきょろきょろと見ていた。
と、その時だった。
「きゃーっ!」
「危ない!」
近くにいた人たちの叫び声。
振り返ると、蛇行運転で向かってくる、一台の乗用車。
だから逃げ惑う人々の中で足がすくんで動けずにいた瞬間、お兄ちゃんの手によって突き飛ばされた。
悲鳴にも似たブレーキ音と、ガシャーン、というけたたましい破壊音。
真っ赤な血に染まる中で、お兄ちゃんはもう、人間の形をしていなかった。
あたしが犬を見たいと言わなければ
言いつけを守ってさえいれば
もしも別の日だったなら
お兄ちゃんは死ななかったのに。
あたしの所為で、
あたしの身代わりに――。
「ルカ!」
弾かれたように顔を上げると、マサキがあたしを揺すっていた。
過去と現実の区別がつかない。
少し見ただけの帰り道で、あたしはそればかり繰り返していた。
お兄ちゃんはそんなあたしを笑いながらなだめてくれていたんだっけ。
そして再び訪れた大通り。
信号待ちをしている中で、あたしは散歩に連れられている犬ばかりきょろきょろと見ていた。
と、その時だった。
「きゃーっ!」
「危ない!」
近くにいた人たちの叫び声。
振り返ると、蛇行運転で向かってくる、一台の乗用車。
だから逃げ惑う人々の中で足がすくんで動けずにいた瞬間、お兄ちゃんの手によって突き飛ばされた。
悲鳴にも似たブレーキ音と、ガシャーン、というけたたましい破壊音。
真っ赤な血に染まる中で、お兄ちゃんはもう、人間の形をしていなかった。
あたしが犬を見たいと言わなければ
言いつけを守ってさえいれば
もしも別の日だったなら
お兄ちゃんは死ななかったのに。
あたしの所為で、
あたしの身代わりに――。
「ルカ!」
弾かれたように顔を上げると、マサキがあたしを揺すっていた。
過去と現実の区別がつかない。