潮騒
今日もこの店は、シャンデリアに灯され、フロアは煌びやかに輝いていた。


内装品になんて手を掛けない店舗が多い中で、ファンタジーはやっぱり高級品が揃えられている。



「ルカさーん!
特別にあたしのプリクラあげちゃいまーす!」


どうぞー、なんて笑顔の美雪。


あたしは苦笑いさえ浮かべられず、半ばそれを強引に押し付けられた格好になった。



「って、何か今日ちょっと変ですよ。」


「……え?」


「普段ならこういうの怒るのに、ホントどうしちゃったんですか?」


脳裏をよぎったのは、昼間のマサキとの出来事。


手首の古傷の理由を問われても、結局あたしは何も答えられないままだった。


普段と違う腕時計は、いつまで経っても馴染まない。



「別にちょっと調子悪いだけだから。」


「風邪ですか?
ならちゃんと病院行かなきゃだし、たまには仕事休んだってバチは当たらないでしょ。」


何があったって、仕事だけは休めない。


それはもうあたし自身に染み付いていて、まるで消えることのないこの古傷みたいだ。



「放っといて。」


と、突き放すように言ったのに、



「あ、じゃあ今度、あたしの通ってるフットマッサージのお店教えますよ!
すっごいリラックスして落ち着くし、疲れだって取れちゃうんですから。」


美雪はいつも動じることはない。


だから今日ばかりは、その奔放さに少しばかり救われる。

< 95 / 409 >

この作品をシェア

pagetop