潮騒
腕を取ってやったのに、逆に抱き締められてしまう始末。


子供が母親に縋るように、レンはあたしの肩口へと、こてっと頭を預けてから、



「俺はちっちゃい幸せさえ求めるべきじゃねぇのかなぁ、って。」


その呟きが虚しく消える。


あたしなんかに何が言えるだろう。


いつの間にレンの体は、こんなにも細く頼りなげになってしまったのだろう。



「レンは悪くないって、あたしは今でも思ってるよ。」


それが精一杯の慰めだった。


もしもあたし達が抱き合ったりしていれば、少しは何かが紛れていたのだろうか。


ただ、レンが壊れてしまいそうで怖かった。



「ベッド貸してあげるから、今日は寝なよね。」


「それ随分と高くつくんだろうけど。」


「なら自分ち帰れ。」


あたし達は、いつもこうやって笑い合う。


ふたりでいたって、決して互いに涙を流したりなんてしないから。


だから辛くて苦しい時ほど無理ばかりして、どんどん嘘の笑顔が染み付いていく。


恋人でも、友達でもない、血の繋がり。



「そんなヒドイこと言わずに、ルカちゃんも一緒に寝ましょー。」


「嫌よ、気持ち悪いわねぇ。」


足蹴にすると、彼は笑い転げてソファーから落下した。


馬鹿だと思いながらも、レンがレンのままでいてくれることだけを、あたしはいつも願っていた。

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