Brute ―あいのうた、きみのうた―
「ああ、うん。
同じゼミの子。」

何でも無いように香波は笑って答える。

わかっている。

香波は嘘がつけない。
もしも浮気なんてしていたら、こんな風に俺に普通に接するなんて出来ないはずだ。

そんなことはわかっている。

わかっているはずなのに、香波の楽しそうな笑顔に、妙に腹が立つ。
香波にいつものように笑えない。


「どこ行く?」

香波が聞いてくる。
垂れた目尻を下げて、口元は小さく開けて笑いながら。


だけど俺はどこかに行くとか、そんな気分にはなれない。


「家。」

「え?」


香波は下げた目元をしばたかせた。



俺の通う大学は3・4年次からキャンパスが違う。
それまで香波の大学やバイト先の近くだったのが、通学に1時間以上かかる隣県になった。

そのため俺は3年になってから大学との中間地点で一人暮らしをしていた。

たった2年ではあるが、その方が通学時間を短縮出来たり、親の目を気にせず香波を家に入れられたり、利点が多かったのだ。


とは言え、すぐに家に行くとは香波は思っていなかったのだろう。
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