Brute ―あいのうた、きみのうた―
家に行くにしても、外でふらふらと遊んでから、が通例だ。


だが香波は一瞬の間を置いて、それが俺がバイトで疲れているからだと解釈したらしい。



「わかった。そうしよ。
今日、忙しかったの?」


例の如く笑顔を見せながら聞いてきた。


「まあ、結構。
朝も早かったし、映画とか見たら絶対寝る。」


俺も笑顔を作って、冗談めかしながら香波に合わせた。

そして香波の手を引いて、駅へ向かった。


移動中の会話は、ほとんど覚えていない。

ただ楽しそうに笑いながら何かを話す香波に、適当に相槌をうっていただけだ。


途中、そんな俺に香波が「聞いてなかったでしょー」なんて笑いながらつっこんだり。
そして俺も「悪い、悪い」なんて言って、へらへらと笑って返したり。


その実、「悪い」とは少しも思っておらず、香波の顔を見る度に頭の中でさっきの男の顔ばかりがちらついた。
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