【掌編】さようならを教えて
そしてまた墓標を立てる
新しい携帯に替えたときのメールが、まだ残っていた。

《やっちぃとエリちゃんのお誕生日会かねて、一緒にご飯食べようよ!》

あからさまなウソ。

新しい携帯に来る一番最初のメールが、あなたであってほしいと、口実をつけたんだ。

もちろん、返事はこなかった。
でも待っていた。

送信した日付は、10月半ば。

今思えば、あなたは、わたしの知らない人と出会って、恋をして、結婚を考えているころだったんだね。

時がすぎてしまえば、ああだったんだ、こうだったんだと、いくらでもいえる。

でもね、知らない人に心を傷つけられた後の電車の中で、それを見つけたとき、わたしはどう思ったとおもう?

みじめ?

さみしい?

かなしい?

泣きたい?


どれも違う。


あのころは、わたしの心の中にまだ、あなたがいたんだ、って事実だけが、よみがえってきたの。

感情はなかった。

事実だけ、思い出した。
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