【掌編】さようならを教えて
この年になって、自分の老後を考える。
そしたら、ディテールこそ細かくなっているけど、不思議と、あの絵と同じなんだ。

わたしは、海に面した崖っぷちの家に、一人ですんで、犬と一緒に暮らしている。
職業はそうだな・・・・・・コラムニスト。場所はアメリカ。家財はタイプライターぐらい。

いつも、強い潮の風にあおられて、遠くを見ている。話し相手は、たまに自転車に乗ってくる、郵便屋さん。

なんで、アメリカなんだろうな。

ただ単にそういう映画を見た、影響かもしれない。

絶えない海の音。
なんとも形容しがたい、海のにおい。
吹きすさぶ風。

夏に、まだ舗装されていない道を歩くと、同じコースを蝶が何匹も飛んでいく。

それを見て、わたしは、子どものころ見た蝶道を、懐かしむ。

日本もアメリカも関係なく、蝶は、蝶。
それを犬とわたしは見ている。

そうしてわたしは、老いてゆき、ひとりで死んでいく。

穏やかな孤独。
ささやかで、静かな、わたしだけの世界。
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