夢幻の都

「そうだ」


「あたしは嫌よ」


ソニアはきっぱりそう言うと、宿屋の前に馬を繋いで、勢いよく扉を押しあけて中に入っていった。 

ランダーは悪態をつき、やはり馬を繋いでソニアの後を追った。


その宿屋はほかの城邑の宿屋がそうであるように、一階が食堂になっているようだった。

胃袋をくすぐるような匂いがたちこめ、客達が談笑する声がさざめくように聞こえる。どこにでもある光景だった。

ソニアは奥まで進むと、手近な椅子に腰をおろした。

黒髪のおさげ髪の少女が、にこやかな笑みを浮かべながらテーブルに近づいてきた。


「いらっしゃい、何になさいます?」


「ちょっと待って……」


ソニアは壁にはりだしてあるメニューとにらめっこをはじめた。


「空いている部屋はあるか?」

ランダーは少女にきいた。


「ええ、ありますよ。一部屋でよろしいですか?」


「ああ」

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