夢幻の都
「お客さん、弟が何か?」
宿の娘が気付いて声をかけてきた。
「いいえ。お祭りを見に行こうかと思って、パットに案内を頼めるかしら?」
ソニアの言葉に、姉娘はほっとしたような笑顔を見せた。
「どうぞ。うちの方も今夜は暇ですし。街の人は皆、外で飲んだり騒いだりでしょうから――じゃ、頼むわよパット」
すると少年は姉娘に抱きついた。
そういう事は稀だったのだろう。
姉娘がとまどったような顔をする。
「お姉ちゃん、いつもありがとう。本当のお姉ちゃんみたいにしてくれて、ありがとう」
「どうしたの、急に? あんたはあたしにとっては本当の弟よ。いつだって」
「知っておいてもらいたかったんだ」
パットは照れ臭そうに笑うと、走って行って宿屋のドアを開けた。
外からにぎやかな音楽が流れてきた。