夢幻の都

「そんな馬鹿な……」

太守がうめくように言った。


「キースという城邑はもうどこにもない。ここは幻なの」

ソニアは憐れむように言った。

「けれどそれももう終わり。<青の歌姫>は自らの運命を嘆きながらも、あなた達を赦していた。初めから赦していた。ただ、心残りは自らの死でベルーの呪歌が失われることだった。でもそれも今日で終わり」


七弦琴が再び和音を奏でた。


「失われた歌は、確かにあたしが引き継いだわ」


ソニアは再び歌いだした。


それは子守唄のように柔らかな歌で、包み込むように心癒される音楽だった。


赦しの歌だ――と、ランダーは思った。


慈悲深い母の歌だ


「ありがとう」


ランダーの横でパットの優しい声がした。


広場は青い光に包まれ、


ひとつ

また ひとつ


幻が消えていった。

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