翔る。
この刀、本物だろうか?
あまりにも男が詰め寄ってくるからつい払ってしまいたくなる
そんな気持ちを抑えて、そっと喉にあてられるモノに触れた。
数秒後に私の手のひらから肘へと伝う水。
血、だ。
背中に冷たい空気が駆け巡る。
そして刀を持つ男の後ろにいた人が馬から降りた。
刀の男よりも少し背が低い。
兜の影から覗いて見える薄めの唇に、通りのよい鼻、
そして吸い込まれてしまいそうな右目。
左目は眼帯で隠れていた。
「やめろ。今、血は見たくない」
そう言われた男はゆっくりと刀を持つ手を下ろした。
刀が下ろされたことによって溶けた緊張。
ほっと胸をなで下ろす。