僕は
覚えています。それに物音を聞いたとも言っておられました。男女が揃って鈍器のようなものを持ち、部屋から逃げ去るということを」


「それが事件の真相なのですね?」


「ええ、間違いありません。木崎さんは殺人などは犯しておらず、寺田さんを殺したのはその男女二人です」


「ありがとうございます」


 須山が一礼すると、青鹿が証言台から降りた。


 能島はその証言を聞きながら、正直なところ負けが決まっちゃったわねと思っていた。


 そして控訴審の第一回目の証人調べは控訴した検察側が大幅に不利なまま、終わる。


 法廷を出て、須山の後ろ姿に向かい言った。


「須山先生、今日の法廷も見事でしたよ」


「あんなのは、刑法畑に長くいる俺にとってお手の物だよ。君ももっと勉強しなさい。あくまで弁護士は被告人の弁護をするのが最優先だ。任務を忘れるなよ」


「分かりました」

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