僕は
 須山がそう言い、ふっと宙を見上げて、


「それが俺の仕事だ。死んだ妻と娘のためにしてやれる、せめてものことだからね」


 と言葉を重ねる。


 初めて須山の口から自身の家族の過去が出てきた。


 しばらく滔々(とうとう)とあの事件のことを語り続ける。


 実は須山は独身じゃなくて一時期家庭を持っていたのだが、事故で奥さんと娘さんを亡くしてしまったらしい。


 驚いてしまった。


 弁護士と言うと綺麗事ばかりがまかり通るようだが、そうじゃないようだ。


 実際、須山は妻子を亡くしている。


 しかも業務時間中に奥さんと娘さんが大型車に轢かれ、交通事故に遭っていた。


 須山も事件発生時、そのことを聞きつけて事務所を抜け出、慌てて飛び出していったようだ。


 だけど救急病院に着いたときは二人とも心停止状態だったらしい。
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