僕は
 須山の記者会見が終わったのを見計らって、駆け寄り、


「先生、お見事でした。感服です」


 と言った。


「今日の裁判の公判記録を後で読み直しなさい。私が公判中に何度も主張した木崎さんの無罪を証明する方法を学ぶこと。これが今の君に出来る最高の勉強だと思う。いたずらに刑法の知識ばかりを詰め込むのは悪知に等しい。私が今言えるのはそれだけだ」


 須山はノートパソコンや弁護に必要な書類などを持ってきていたカバンに詰め、歩き出す。


 東京高裁前には大勢の報道陣が詰め掛けている。


 師走で忙しいというのに、マスコミの人間たちは皆、この事件の裁判の根幹が知りたいと思っているようだ。


 須山と能島の両方にマスコミが駆け寄る。


 能島は敗戦の弁を述べ、須山は軽く一言、


「後でマスコミ宛にファックスをお出ししておきますので、それをお読みください」
 

 と言い、記者たちを遮って、高裁前で待っていたタクシーに乗り込んだ。
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