僕は
第20章
     20
 翌朝眠っていたソファーから起き上がり、いつものようにコーヒーを淹れる。


 カップ一杯飲み終わった後、須山に言われた通り、昨日の裁判の公判記録を読み直した。


 公判中に須山は改めて木崎朱莉の無罪を証明するため、検察側が警察を通じて手に入れた証拠の不当性を主張している。


 この一点集中の方法は弁護人にとってとても大事なことだ。


 いわゆる検察サイドの提起した違法収集証拠の孔を突くのである。


 案外、慣れない弁護人ならつまずきがちだ。


 だけど須山の弁護は完全にその範囲を超えている。


 彼の弁護に対する姿勢は一転もせずに、ただひたすら木崎が嵌められた事実を列挙することだった。


 それが結果として、裁判官や裁判員の心証をよくしたことが分かる。


 刑法専門の弁護士なら誰もが心得るべき手法だ。


 そしてこれが出来てこそ初めて、殺人容疑の掛かっていた無実の人間を弁護することが可能となる。
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