僕は
事をすることで自分の妻子を失った悲しみを癒したいのだろうと思える。


 一緒の事務所にいる弁護士たちは皆、須山の過去を知っていてあえて口に出さない。


 高階も須山と同世代なのだが、妻子の事故死に関して知っていても一言も言わなかった。


 江美はずっと高階の下で働き続けているのだが、何も聞いてないらしい。


 どうやらこの事務所内には複雑な事情があるようだった。


 それはいくらイソ弁の僕でも分かる。


 事務所に帰り着き、ずっと個室内で作業しながらふっと須山の部屋の方を見ると、コーヒーを飲みながらじっとパソコンのディスプレイに目を落としていた。


 木崎の裁判が終わってから数日が経ち、僕も一度自宅に戻って入浴し、着替えなどを持って事務所に戻る。


 泊まり込みが続きそうだ。


 疲れるのは分かっている。


 ありとあらゆる人間社会のトラブルを解決するのに弁護士は必要だ。


 そのためなら、多少きつくてもしっかりと業務をこなすしかない。
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