僕は
 という声が聞こえてきた。


 ――ああ、俺、敬一だけど。……何か用?


「ええ。今からお茶でもしない?」


 ――どこかいい場所あるの?


「うん。今、東京拘置所出たところでしょ?六本木のカフェ<クレルール>に今から来て。奥のテーブルで待ってるから」


 ――分かった。すぐに行くよ。じゃあね。


 僕が電話を切り、車を走らせ続ける。


 さすがに疲れてはいた。


 殺人罪の被告人と会ってきたのだから。


 大きな仕事である。


 その人の人生が決まるわけだし。


 仮に無罪である木崎が法廷で死刑などを言い渡されたら、僕の弁護士人生も狂わされる。

< 15 / 359 >

この作品をシェア

pagetop