僕は
 そして事務所内に噂が広がっていた。


 来年四月の新年度から、今事務所の所長をしている鎌田に代わり、須山を所長にするということが、だ。


 つまり僕や江美のようなイソ弁とは違い、須山は一気に出世コースを上り詰め、あっという間に雲の上の人になるということである。


 これは長年苦労してきた結果が実ったものと言えた。


 ずっと須山は苦労続きだった。


 裁判で負けて責任を取らされた過去もある。


 だけどそういった過去も全て清算されるのだ。


 事務所の所長に納まることで。


 新年度からは簡単に「須山先生」とは呼べないだろう。


 もちろん呼ぶときは「須山所長」だ。


 弁護士事務所も階級社会である。


 上下関係は厳しい。
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