僕は
 須山の部屋の前まで行き、


「お待たせしました」


 と言った。


「おう。行くぞ」


 須山がパソコンをセーフモードにし、スーツの上からコートを羽織って歩き出す。


 ずっとここに寝泊りしているようだった。


 家まで帰るのが面倒らしい。


 須山も江美と同じく、六本木にマンションを持っていた。


 奥さんと娘さんが亡くなった後もずっと同じマンションを保有し、家賃も払ってまるで家族三人で暮らしているように自分自身に思い込ませているようだ。


 やはり辛いだろうとは思う。


 でも須山の精神はタフらしい。


 所長に就任しても、ちゃんと墓前に報告に行くつもりのようだ。

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