僕は
 だけど一度弁護を引き受けた以上、ちゃんと最後まで弁護をする必要性があった。


 ずっとそのことが脳裏を過ぎる。


 朝から晩まで。


 そして調書を読み始めてから一週間以上が経ち、一つの結論に至った。


 この被告人はクロだなと。


 ただクロである人間をどうやってシロに近くまで持っていくかは、僕の力量に掛かっていた。


 新宿の雑居ビルの一室に発火装置を仕掛けて、タイマーを使い、火を起こしたと員面調書には記載がある。


 そういったことをやれるのはおそらく相当な人間だろう。


 すでに警察官の集結する捜査本部――いわゆる帳場というやつだが――は解散されていて、警視庁や所轄の人間たちも手を抜いているらしい。


 その発火装置を仕掛けたと目されたのが、今回の被告人だった。


 その人間の弁護を引き受けざるを得ない。
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