僕は
 江美がそう言って、事務所内の僕の部屋を出たのは、一月も終わりに近い日の夕方だった。


 コーヒーを淹れ直して飲みながら、逮捕前後の山井さんの身辺を調査する。


 野川があえて嵌める理由はあったのか……?


 まだ分からないことだらけだ。


 ずっと資料を読みながら、時折軽く息をつく。


 確かに世の中くだらないことばかりだ。


 僕もずっとそう思っていた。


 弁護士をやっていると、そういったものが否応なしに見えてくる。


 社会の裏というのか、世の中に蔓延る悪い情勢というのか……。


 そしてそれが仄見えた瞬間、まるで霧が晴れたように一つの事件の根幹部分もくっきりと見えて、事件の真相へと辿り着く。


 もちろん、ここまで行くのには相当な労力が要る。


 並大抵じゃない。
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